
和歌山県海南市に佇むアトリエ七つの音。ドレミファソラシの音階、虹の七色。自然界に息づく「七」という数字に込められた想いは、一人ひとりの個性が輝く場所でありたいという願い。美大受験生から趣味で絵を楽しむ大人、自由な発想で描く子どもたち、そして人生の節目を迎えた高齢者まで。ここは絵を通じて人と人が出会い、自分らしさを見つけていく場所だ。
偶然の出会いから紡がれた、継承の物語

アトリエ七つの音を営む山崎さんの歩みは、意外な道から始まった。大学では都市計画を学び、庭師として5年間働いていた彼が転機を迎えたのは、高校時代の恩師との再会だった。海南高校に半年間だけ代理教員として赴任してきた先生との出会い。それは偶然のようで必然だったと山崎さんは振り返る。「自分も導かれたように、これからの人もこういう道があるよって伝えるためにここにいる必要がある」。先代から受け継いだアトリエの名前「七つの音」には、人の個性という七つの光が現れる場所になってほしいという願いが込められている。
技術と自由の間で磨かれる、教える技

美大受験クラスでは短期決戦で確実な技術を身につけさせ、一般クラスでは生徒一人ひとりのやりたいことを形にするサポートをする。この二つのバランスを取ることが、山崎さんの教え方の真骨頂だ。「最終的にはその人がやりたいことを実現するために技術を身につけなきゃいけない。目標は一緒なんです」。急にスパルタ式で基礎を叩き込むのではなく、楽しみながら技術を自然と身につけてもらう。子どもたちには何も教えず、ただ自由に表現してもらい、それを肯定する。「自分が好きでこうしたいと表現したものが肯定されることが大事」という考えのもと、年齢や目的に応じた指導を心がけている。
生徒の成長が、講師の喜びに変わる瞬間

美大受験を乗り越え、自分でも知らなかった表現の可能性を発見した高校生。コツコツと描き続けて和歌山県民展で優秀賞を受賞し、涙を流した一般クラスの生徒。「今年は大変な試練の多い一年だったけど、ここに来たらみんなと話せて、描いてたんですよ」という言葉に、アトリエの存在意義を感じる。そして、かつてここで学んだ生徒が、今や仮面ライダーの主役スーツデザイナーとして活躍している。「昔から仮面ライダーが好きで、ここで描きに来てた」という彼の成長は、山崎さんにとって何よりの喜びだ。作品が溜まっていくことが人生の足跡になる。それもまたアトリエの役割の一つだ。
絵を超えて広がる、コミュニティという価値

近年、山崎さんが気づいたのは、アトリエが単なる絵画教室ではなく、地域コミュニティの場としての役割も担っているということだ。ご主人を亡くされた高齢の女性が、娘さんに連れられて通い始め、毎週の通所を楽しみにしている。「出かけるところもないので、こうやって毎週来て、友達もできて話せるのがとてもありがたい」という家族の言葉に、新たな可能性を見出した。高齢化社会において、共通の趣味を持つ人たちが集い、和気藹々と語り合える場所。学校に馴染めないけれど絵は好きだという若者をフォローする場所。これからのアトリエは、絵の技術を教えるだけでなく、人と人が繋がり、支え合う場所でありたいと願っている。
七色の個性が未来を照らす、アトリエの展望

海南という地域に根ざし、先代から受け継いだ想いを次世代へ繋ぐ。技術を磨く場として、自己表現を楽しむ場として、人生の節目を支える場として。アトリエ七つの音は、これからも多様な個性が輝き続ける場所であり続けるだろう。
一枚の絵から始まる、人生の物語

アトリエ七つの音を訪れて、山崎さんのお話を伺いながら、絵を描くということの本当の意味を教えていただいた気がします。ここは単に絵の技術を教える場所ではなく、一人ひとりの人生に寄り添い、その人らしさを引き出していく場所なのだと感じました。
特に印象的だったのは、「自分が好きでこうしたいと表現したものが肯定される」という子どもたちへの接し方です。技術を教えることも大切ですが、まず自分の表現を肯定してもらえる経験が、その人の人生を大きく変えていく。山崎さん自身も、高校時代の恩師との偶然の出会いがきっかけで今の道を歩んでいるように、アトリエで過ごした時間が、誰かの人生の転機になっているのだと思います。
実際に通っている方々の作品を拝見しましたが、それぞれの個性が輝いていて、描いている方の人生そのものが一枚一枚に込められているように感じました。半年かけて描かれた大作、細部まで丁寧に描き込まれた風景の絵。どれも技術だけでなく、描き手の情熱と時間が積み重なっています。
そして何より素晴らしいのは、アトリエが世代を超えた交流の場になっているということです。美大受験を目指す高校生、仕事の合間に通う社会人、退職後に本格的に絵に取り組む方、ご家族に勧められて通い始めた高齢者、自由に表現を楽しむ子どもたち。こうした多様な人たちが同じ空間で絵を描き、語り合い、お互いの作品を認め合う。これは、現代社会において本当に貴重なコミュニティだと思います。
海南から南には、こうした本格的な絵画教室が少ないそうです。だからこそ、アトリエ七つの音の存在意義は大きい。もし絵を描くことに興味があるなら、技術を学びたいなら、あるいは自分の個性を表現する場所を探しているなら、ぜひ一度訪れてみてください。山崎さんの温かい指導のもと、あなたの中に眠る「七色の光」が輝き始めるはずです。
ACCESS
アトリエ7つの音
〒642-0004 和歌山県海南市馬場町1丁目2
TEL 073-482-3114
URL https://7oto.jimdofree.com/
