あり長水産・在本 長興さん:四代目が紡ぐ信頼のしらす

和歌山県海南市下津町。国道42号線から少し入った、分かりにくい場所に「あり長水産」はある。それでも、県外から、わざわざ車を走らせてくる客が絶えない。
明治創業、100年以上続くこの店の四代目・在本長興さん。 伝統を守りながらも、新しい挑戦を始め、客との対話を重ねてきた。
「人とのつながりが一番。それが、商売の基本やと思うんです」在本さんが守り続けているのは、しらすの味だけではない。代々受け継がれてきた技術と、人を大切にする心だ。

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営業マンから、しらす屋へ

在本さんが家業を継ぐ前、約15年間、大阪・和歌山で食品サンプルの営業マンとして働いていた。飲食店を回り、商品を提案し、人と話す日々。その経験が、今の商売を支えている。
「会社員時代も充実してたけど、今は自分の裁量で動けるのがええんです。お客さんと直接話せるし、喜んでもらえる顔が見える」家業を継いだのは、約10年前。父(三代目)は今も現役で「責任者」として毎日店に立つが、在本さんは「次の世代の商売」を模索し始めた。
「昔は、店で待ってるだけやったんです。でも今は、ネット販売やイベント出店も始めて。お客さんが来るのを待つだけやなくて、こっちから会いに行くスタイルにしたんです」コロナ前は、大阪のマルシェや地域のイベントに頻繁に出店した。「しらすの佃煮」や「釜揚げしらす」を持って行き、その場で試食してもらい、話をする。営業マン時代の経験が、そのまま活きた。
「イベントに出ると、お客さんの顔が見える。『美味しい』って言ってもらえる瞬間が、やっぱり嬉しいですね」

「待つ」から「会いに行く」へ。在本さんの代で、あり長水産は新しい一歩を踏み出した。

「また来ます」――リピーターが絶えない理由

あり長水産は、決して分かりやすい場所にない。初めて来る人は、ほぼ迷う。それでも、リピーターが絶えないのは、味と人柄への信頼があるからだ。
「最近、京都や神戸から来てくれる人が増えたんです。『友達に聞いて』とか、『ネットで見て』とか。誰かが誰かに勧めてくれる、それが一番ありがたいです」在本さんは、お客さんとの会話を大切にする。店に来てくれた人と言葉を交わし、しらすの魅力を伝え、「また来たい」と思ってもらう。
「お客さんと話すのは好きですね。営業やってたんで、人と話すのは慣れてるし。しらすだけやなくて、自分のことも信頼してもらえたら、それが一番嬉しい」。
しらす漁は「自然に左右される商売」だと、在本さんは言う。海が荒れれば獲れない。季節によってしらすの良し悪しがある。自然に左右される商売だからこそ、人との信頼関係が、店を支える。良い時も悪い時も。そんなお客さんとの関係が、あり長水産を支え続けてきた。

父の背中を見て、50年

在本さんが家業を継いだのは10年前だが、しらす屋としての修行は、50年前から始まっていた。
「子供の時から、父(三代目)の隣で見てたんです。しらすを触って、塩を掴んで、茹で上がりを見つめて。口で『こうやれ』とは言わんのよ。ただ、隣で一緒に作業して『あ、今日は父さん、塩を多めに入れたな』とか、見て覚える」
「継ぐっていうのは、技術だけじゃないと思うんです。父さんの『これでいい』っていう感覚を、どれだけ自分の中に残せるか。それが、継ぐってことやと思う」子供の頃から見続けてきた父の手つき、父の判断。それが今、在本さんの中に息づいている。

塩加減と、職人の手

しらす作りはシンプルだ。目利きにより新鮮で良いしらすを競り落とし、生しらすを塩水で茹で、天日で干す。だからこそ、塩加減が、すべてを決める。
「しらすって、どこで買っても一緒やと思うでしょ? でも違うんです。うちの個性は、塩加減。薄めの塩でやってるから、小さいお子さんやお年寄りにも食べやすいし、料理にも合いやすい」塩の量は、その日のしらすの状態――サイズ、鮮度、水分量――で微調整する。「魚が粗く(大きく)なったら、ちょっと塩を増やす。塩が乗らなくなるんで」

茹でる工程は、機械式だ。しかし、機械だからといって、手抜きではない。「機械式でも、職人の手が必要なんです。釜茹での時間、火加減、その日の魚の状態に合わせた調整――全部、人が見てるんです」。昔ながらの伝統の製法が基本にあり、それを機械で再現する。そこに、職人の経験と勘が加わる。
「機械は道具やけど、味を決めるのは、人。それは、父の代から変わってません」代々続くあり長水産の味は、職人の手と目が、今日も守り続けている。

守り続ける、味と信頼

五代目のことは、まだ分からない。でも在本さんは、今日もしらすを茹で、天日で干す。
「次の世代がどうなるかは分からんけど、この味と、お客さんとの信頼は、ずっと守っていきたい」しらすは、どこで買っても同じ――そう思われがちだ。でも、あり長水産のしらすは、人が味を守り、人が信頼を紡いでいる。
県外から、わざわざ車を走らせてくる客。「また来ます」と笑顔で帰っていく常連。それは、在本さんが長年かけて築いてきた、人とのつながりだ。
「人とのつながりが一番。商売って、結局そこに尽きると思うんです」在本さんが、しらすを茹でる釜を見つめる。その目には、三代目から四代目へ、そして未来へと続く、あり長水産の味と、信頼が宿っている。


ACCESS

あり長水産 和歌山 しらす 販売
〒649-0101 和歌山県海南市下津町下津1545
TEL 073-492-0131
URL https://store.shopping.yahoo.co.jp/arichou-shirasu/

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